日本のいちばん長い日

映画を観てきました。

事前にチェックしていた評価は、そこそこ好評だったけれど。

1、ナレーションもテロップも無いので、予備知識が不可欠。
2、炎天下に奔走する、反乱将校らの汗も涙も全く感じられない。
3、米内海軍大臣の描き方に疑義あり。
4、主役は誰か、よくわからず。
5、67年岡本喜八版とはまるで別物。比べる意味も無い。

 私は学生の時分、昭和戦中期の軍部による政治介入を中心に研究し
ていたから、当時のことは熟知している。おそらく映画館にいた誰よりも
(年配者を含め)、学術的な視点での知識はあると断言してもよい。
 その私が観ても、目の前のスクリーンに登場する人物が誰で、誰と誰
が会話をしているのか、判別するまでに多少の困難が伴った。何も知ら
ない普通の人にとっては、チンプンカンプンの会話であっただろう。少な
くともセリフのある人物くらいは、名前と肩書きを明示してほしかった。
 例えば、あの画面上で大西瀧治郎(海軍軍令部次長、特攻作戦を立
案した人物)を認識出来たのは、私だけであったかもしれない。それが
主役(?)の役所広司演じる阿南惟幾(陸軍大臣)と、大層な会話を(そ
れも、海軍中将である大西が陸軍大将である阿南に、ほぼタメ口で!)
しているのだから驚く。

 この当時の日本を描こうと思ったら、肩書きと階級(上下関係)は最も
重要であるはずなのに、それが明示されていないので、主役(?)の大
元帥・天皇裕仁を頂点とするピラミッド構造が見えてこない。
 ということは、この作品を撮った原田監督は、それぞれの立場でそれ
ぞれが守りたいと願った「国体」とは何なのか、全然把握しないで映画
を作ってしまったことを意味している。上層部が考える「国体」と、青年
将校らが考える「国体」は、違う意味合いを持っているものなのだ。

 それにそもそも、今の日本人で明治憲法下での「国体(天皇主権の統
治体制)」とは何か、理解している人は殆ど居ないであろうし、故に何の
解説もなく「国体護持」と言われても、言葉ばかりが上滑りして、曖昧な
ままどこかへ消えてしまう。若い人に観て貰いたいのならば、もっと丁寧
な作り込みが必要だったと思う。まだ戦時の記憶が鮮明であった、前作
当時の社会背景と今とでは、状況は全く異なっているのだから。

 しかし、英語題『THE EMPEROR IN AUGUST』を踏まえれば、私も知ら
なかった宮中での天皇の日常や、人間的な姿が描かれていて、そこは
それなりに楽しめた。
 本木雅弘の昭和天皇は品が良く、山崎勉の鈴木貫太郎は凄い迫力
だった(でも、実際はもっと飄々とした人だったらしい。都合が悪いと耳
が聞こえないフリをして、周囲を煙に巻いていたというから)。
 それにもまして、米内光政海軍大臣の激昂ぶりには仰天の限り。いや
いや、米内さんはあんな人じゃないよ。私は常々、「どうしてもっと米内
(連合艦隊司令長官、海軍大臣を経て首相)という人間がクローズアッ
プされないのか?」不思議でならないのだが、こと終戦に関しては天皇
―鈴木―米内の海軍和平派ラインが暗黙裡に、確固として作用した結
果であると考えるので、あの米内さんでは「ただのブチ切れおじさん」で
しかなく、非常に残念。

 結局、一番印象に残ったのは、何の権限も無いのに、勝手に宮中に
参内奏上した東条英機を演じた、中嶋しゅうという役者さんだった(笑)。
中嶋さん、相当に勉強されたのね?東条英機、かくあり。お見事!
 青年将校の皆さんに関しては・・・特に感想はありません(その程度)。

 今年は戦後70年。以前は毎年8月になると、テレビでは各局終戦特集
があり、旧版の『日本のいちばん長い日』や小林正樹監督の『東京裁判』
(どちらもモノクロ作品)などが放映されたものだが、もうそんな時代では
ないのだろう。
 『東京裁判』と言えば、テレビで初めて放映された日(1985年8月12日)、
あの日航機が墜落し、テレビ画面の上部に搭乗者名簿のカタカナ名が
延々とテロップで流されて、それがモノクロ映画の画面とかぶって何とも
言えない緊張感を孕んでいたことが思い出される。あれは終戦40年記
念の放送だったのか・・・と、改めて時の流れに感慨を深めた。

 本作の出来はイマイチだったけど、観ないよりは観た方がよい。地上波
で放映の際には、是非皆様ご覧下さい。ついでに、旧作もレンタルなどし
て観て下さいね。本当に素晴らしい作品ですから。鬼気迫る黒沢年男の
畑中少佐がハマりまくってます(笑)。
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